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シリアスな話のはずがらぶこめな締めに


「どうしておれだったんだろうなあ」
 あの日、彼はとても酔っていました。ですから誤解しないでほしいのですが、彼は普段こんな弱音を言うような、少なくともわたしのような彼の庇護を受ける弱い者にこんな弱音を言う人ではないんです。けっして彼を美化して称えているのではありません。むしろわたしは、彼の隣に並べない自分を恥じているのです。彼が認める、同等に強い方たちであればきちんとそのお話を聞けたでしょうに、わたしにはお酒という魔法がないと彼の弱さを垣間見ることさえできないんですから。
 彼は優しく、そして正義感の強い人で、その正義を貫くだけの強さも持っていました。彼が為したことを思えば『持ちえてしまった』というのかもしれませんが、ここまで『選んで』きた彼にその評価は不適切でしょう。彼は強い人なのです。
 彼の友人もまた、それぞれの正義を持った人でした。だからこそ彼の友人でありえたともいえます。しかし彼の友人が彼の正義を受け入れるかはまた別の問題でした。
 酔っていなければ彼はわたしにこんなことを言わなかった、とわたしはいいましたが、かといって彼の友人になら言ったのかというと、それもまた違います。異なる正義を持ち、同等の強さを持った彼らは、それゆえに言えないこと・貫かねばならぬ姿勢がありました。つまり、次のようなことを彼は本当は誰にも言えなかったのです。
「おれぁさ、たぶん、おんなしことがあったら同じよーにするぜ?なんど言ってもわかんねーやつは、おれがせいさいしてやる。……わかってるよ、おれはそんな偉かねぇ。だからおれはいつか罰せられる。んなことはいいんだ。その日までおれはおれであり続ける。
 ……ただなあ、なんでおれだったんだろ、って。なんであそこに居合わせたのがおれだったんだろうなあ……。おれだって誰かをころしたりなんか、したかねぇよ……。ころしたいからころしてるんじゃあ、ないんだ。じゃあすんなって話だけどよ、おれにはああいうの、無視できなくてさ。ってか無視するほうが嫌でさ、後悔すんだよ。だからしゃーねぇんだけどよ……。けどよ……あそこに、おれがいなかったら。おれがしらなかったら。そしたらまた罪の無いいのちがうばわれて、理不尽なおもいをするやつらが出て、いやなんだけどさ。でもさあ……」
 彼は強いから、どんなことにだって耐えられるなんて嘘です。それこそ理想の押し付けです。正しく義を通したかった彼が、義を通すために道を違えるのがどんなに辛いことだったでしょう。その歪みを指摘されるのが、どんなに苦しかったでしょう。彼こそが自分の行いを正義ではないと思っているのです。正しくないと理解しているのです。誰よりも『正義』でありたかった彼が!
「……わるい、忘れてくれ」
 彼はくしゃりとわたしの頭を撫でるとお酒をぐいと飲み干しました。こんなにも酔っていてもそれ以上を言うことはなく、また失言だったと思っているようでした。
「ユーリ」
「……」
「わたし、あなたが好きです」
「……エステル、」
「あなただから、です。どうしてユーリだったのか、その答えはこれしかありません」
「……」
 ユーリはしばらく黙っていました。わたしの言が彼の問いにかかっていると気づいたのでしょう、珍しく視線を落としてわたしに話しかけました。
「俺だから、か」
「はい」
「……損な性分だぜ」
 次にわたしを見た彼は、幾分か晴れた顔でいつもの笑みを浮かべていました。わたしも笑って応えます。
「わたしもでしょう?」
 あなたみたいな人を好きになるなんて。
「……言うようになったな」
「ふふふ、だって、並みの相手じゃありませんから」
「ま、健全優良な物件じゃねーな」
 そう言って彼は少し考えるようなそぶりを見せました。きっとわたしの告白の返事を考えているのでしょう。わたしは彼の空になったグラスに、用意しておいた水を注ぎながら言いました。
「今はこれでおしまいにしましょう、ユーリ。それから、今日のことは忘れてください」
「……お前はそれでいいのか」
「はい。今度はユーリが酔っていないときに言います」
 彼は一瞬虚を衝かれた顔をしましたが、わたしの覚悟が伝わったのかやれやれと肩をすくめるとグラスの水を飲み干す前にこう言いました。
「早くしろよ?じゃないと俺から言っちまうからな」
「……はい?」
「色々とサンキュ。また明日な、エステル」
「ちょっ……ユーリ!今のはどういう意味です!?」
 彼はマスターに一声掛けるとわたしの方に振り返り、
「今日のことは忘れてください、だろ?」
 と宿のあてがわれた部屋に行ってしまいました。こ、こんなのってあんまりです!わたし、真面目にお話してましたのに!

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